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大阪高等裁判所 平成9年(ラ)250号 決定 1997年5月06日

主文

一  原決定を取り消す。

二  本件を奈良家庭裁判所葛城支部に差し戻す。

理由

第一  本件即時抗告の趣旨及び理由

別紙即時抗告の申立書(写し)記載のとおり。

第二  当裁判所の判断

1  一件記録によると以下のとおり認められる。

(1) 原裁判所は、被相続人の相続人の存在が明らかでなかったので、奈良地方検察庁検察官の請求により、平成六年三月一七日、民法九五二条に基づき、相続財産管理人を選任した。

原裁判所は、民法九五八条に基づき、相続人捜索の公告をし、相続権主張の催告をした(催告期間満了日平成七年五月三一日)。同期間内に、抗告人及び丙竹夫が、それぞれ被相続人との養子縁組の成立による相続権の主張を相続財産管理人に対してした。なお、その後抗告人は相続権の主張を撤回している。

(2) 丙竹夫は現時点でも相続権の主張を継続している。丙竹夫は養子縁組を証明した公証書(以下「本件公証書」という)に基づいて養子縁組の成立を主張している。

(3) 被相続人の妹と称する乙春子は、本件公証書を作成した天津市公証所を被告として本件公証書の取消を求める訴訟を天津市第一中級人民法院に提起し、平成八年一〇月に、乙春子勝訴の判決が言い渡された。同判決に対し、被告天津市公証所及び参加人丙竹夫は上訴し、天津市高級人民法院は平成九年三月一八日、上訴棄却の判決をした。この結果、上記判決は確定した。

(4) 平成八年一二月四日、乙春子代理人甲野花子代理人内橋裕和弁護士から相続財産管理人に対し上申書が提出された。同書面には乙春子が相続人である旨の記載がされ、丙竹夫への財産の引渡を中止するよう求める旨の記載がある。

(5) 抗告人は、平成八年一二月一六日、相続財産管理人に対し、本件特別縁故者に対する相続財産分与の申立てをした。

(6) 平成九年一月六日、乙春子の代理人丁鎖栄弁護士から相続財産管理人に対し、乙春子が被相続人の遺産を相続することの申入れがされた。

2  特別縁故者に対する相続財産分与の申立期間(以下、同申立てを「相続財産分与申立て」、同申立期間を「相続財産分与申立期間」という)について

(1) 抗告人の相続財産分与申立ては、前示相続権主張の催告期間(以下「相続権主張催告期間」という)の満了後三か月を経過した後である平成八年一二月一六日になされている。すなわち、同申立ては、民法九五八条の三第二項所定の期間を経過してなされた。

(2) 抗告人は、相続権主張催告期間内に相続人である旨の申出書を原裁判所に提出したことをもって特別縁故者に対する相続財産分与の申立ての趣旨と解することができると主張する。しかし、抗告人の上記申出書は、同書面記載のとおり相続人であることの主張と解するほかない。これを相続財産分与申立ての趣旨と解することはできない。

(3) ところで、特別縁故者であると主張する者が、民法九五八条所定の相続権主張催告期間内に相続人として届出た者に相続権がないと主張して、相続財産分与の申立てをした場合には、相続財産分与申立期間を以下のように解すべきである。

相続人であることの申出をした者の相続権の存否が争われ、同法律関係が未確定の状況においては、相続権主張催告期間が満了しても同法九五八条の三第二項所定の三か月の相続財産分与申立期間は進行しないものと解するのが相当である。この場合には、相続権の不存在が確定した後三か月の相続財産分与申立期間が進行すると解すべきである。その理由は次項((4))のとおりである。

(4) 相続財産分与申立ては、相続人の存在が明らかにならなかった場合に限り認容し得るものである。そうであるから、相続権があると主張する者が存在する場合には、たとえ特別縁故者が現在、上記相続権の存在を否定しているとしても、その不存在が確定する以前の段階で、特別縁故者に対し、相続財産分与の申立てを要求するのは申立人に酷である。また、相続財産分与の申立て制度の趣旨からみても、相続権の存否が確定する以前に相続財産分与の申立て手続を進行する余地はないのであって、相続権主張催告期間内に相続財産分与申立てを要求する合理的根拠がない(民法九五八条の三第一項参照)。

3  当裁判所は、以上の認定事実及び法律解釈に基づき、抗告人の本件相続財産分与申立てを適法なものと判断する。その理由は以下のとおりである。

(1) 丙竹夫の相続権の存否

抗告人の本件相続財産分与申立てがされた当時、丙竹夫の相続権の存否に関する訴訟が係属中であり、同人の相続権の存否に関する法律関係は確定していなかった(第一順位の相続人であることを主張する丙竹夫の相続権について、第二順位の相続人であることを主張する乙春子が訴訟を提起して争っていた。)

したがって、抗告人の本件相続財産分与申立てがされた当時、上記法律関係が未確定であった以上、特別縁故者に対する相続財産分与申立期間は進行しない。

(2) 乙春子の相続権の存否

乙春子は、被相続人の妹であると主張している。したがって、同人は、丙竹夫(養子であると主張している)の相続権が否定されると、第二順位の相続人となる。しかし、乙春子の相続権の主張は上記民法九五八条所定の催告期間経過後になされている。

ところで、上記催告期間内に相続人であることの申出をしなかった者については、たとえ同期間内に相続人であることの申出をした他の者の相続権の存否が訴訟で争われていたとしても、該訴訟の確定に至るまで同期間が延長されるものではない(最判昭56・10・30民集三五巻七号一二四三頁)。そうであるとすると、乙春子の相続権の主張は認められないといえそうに見える。

しかし、乙春子は丙竹夫の相続権が否定された場合の第二順位の相続人である。本来、丙竹夫の相続権が否定されなければ、相続人としての権利を主張できない。さらに、乙春子は中国に在住しており、上記催告期間内の相続権主張が容易でなかったという事情も窺われる。そうであるとすると、この点に関する事情如何によっては、乙春子の相続権の主張を適法であると解する余地もある。その場合には、丙竹夫同様、乙春子の相続権の存否の問題が生ずる可能性がある。現時点において、乙春子の相続権の主張の可否や相続権の存否に関する法律関係は確定していない。

したがって、この点からも、特別縁故者に対する相続財産分与申立期間が進行していないとみる余地がある。

(3) 以上のとおり、少なくとも、抗告人が本件相続財産分与申立てをした当時、抗告人の、本件相続財産分与の申立ての期間は進行していなかった。また、現時点においても、本件相続財産分与の申立ての期間が進行していないとみる余地がある。そうであるから、本件相続財産分与の申立てが、同申立期間を徒過した不適法なものであるということはできない。

もっとも、現時点では、上記(2)のとおり、乙春子の相続権の主張の可否や相続権の存否に関する法律関係は確定していない。そうであるから、原裁判所は、本件相続財産分与の申立て手続を進行することができない(民法九五八条の三第一項本文)。

しかし、本件では、将来、相続権の主張や相続権の存在が確定的に否定される可能性があることも否定できない。そうであるとすると、後に条件がそろえば抗告人の本件相続財産分与の申立て手続を進行し、同申立てに対する審判をする余地も残されているのである。したがって、現時点で本件相続財産分与申立てを不適法として却下すべきものとはいえない。原裁判所は、上記法律関係が確定されるまで、その帰趨を待ち相当な審判をすべきものである(なお、その間、同法律関係を継続的に調査する必要がある)。

4  まとめ

以上のとおり、原審において、なお乙春子の相続権の主張の可否(場合によっては相続権の存否)に関する法律関係について継続的に調査し、その帰趨を見極めたうえ、相当な審判をする必要があるから、本件を原審に差し戻すのが相当である。

5  結論

よって、原決定を取り消し、本件を奈良家庭裁判所葛城支部に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 小田耕治 裁判官 杉江佳治)

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